当研究室では,モデル植物シロイヌナズナを用いて,植物で初めての大規模な(6憶を超えるデータポイントからなる)遺伝子発現データを集積し、遺伝子発現パターンをオンラインのデータベースで調べることを可能にしました。ゲノム解析の精力的な推進により、植物では始めてシロイヌナズナのゲノムDNA配列が2000年に決まり、網羅的な遺伝子発現の解析が可能となりました。植物の分野でも2003年に理研(日)、マックス・プランク研究所(独)をはじめ英、米などの研究者がAtGenExpress国際コンソーシアムを結成し、協力、分担してモデル植物シロイヌナズナの6億を超える大規模な遺伝子発現データを収集しました。当研究室は、この収集で植物ホルモンの分野を担当し、コンソーシアム全体の4分の1のデータを作成しました。   AtGenExpressコンソーシアムが集積したデータによって、世界の研究者は、植物の遺伝子の発現パターンをオンラインで調べたり、遺伝子の機能をコンピュータで大規模に解析したりすることができるようになりました。当研究室が担当した植物ホルモンのデータを利用すると、植物ホルモンが関連する薬剤、遺伝子の機能や作用メカニズムを推測することも可能になります。様々なマイクロアレイ実験について実験間の類似性をモジュールを利用して計算する手法を開発し、検索するデータベース「AtCAST」を開発しました。これらデータベースは、シロイヌナズナのデータを中心に開発してきたものですが、多くの遺伝子は植物間で共通に働くため、イネなど産業上重要な植物の遺伝子機能推測にも応用できます。さらに、植物の成長を制御する新しい手法の開発や、農薬などの開発に貢献することができると期待されます。
本研究成果を報告した論文はトムソンロイター社より「New Hot Paper (動植物学分野で最も高頻度に引用された論文の1つ)」として表彰されました。

より詳しい研究成果の内容(理化学研究所のプレスリリースのページへ)

国際分担による網羅的な遺伝子発現データの収集プロジェクトAtGenExpress
図 国際分担による網羅的な遺伝子発現データの収集プロジェクトAtGenExpress

トランスクリプトーム研究とインフォマティクス解析

私たちは、大規模なトランスクリプトーム(トランスクリプト=遺伝子転写産物(mRNAなど))相関データベースを整備することにより、植物成長調節剤の作用機構を推定する手法を開発しました。この手法を活用して、植物ホルモン「エチレン」の生合成阻害剤として有名なアミノエトキシビニルグリシンが、他の植物ホルモン「オーキシン」の活性を阻害することを発見し、その後の研究を通して世界で初めてのオーキシン生合成阻害剤を同定することに成功しました。さらに、「ジベレリン」生合成阻害剤として知られるウニコナゾールPが、「サイトカイニン」生合成阻害活性を有することも解明しました。

AtCAST

矢印1

データベースAtCASTを利用して、化合物Aと同じような、または逆向きのmRNAの組成変化をおこしている植物の生育条件を検索できます。

AtCAST図AtCAST図
検索の結果(左図)と発現変化していた遺伝子のリストとそのカテゴリー情報 (右図)

矢印2

一致する条件が、化合物Aの作用点である可能性が考えられます。

今後の応用展開

植物転写制御ネットワークの解析

 

【研究紹介】